月見草アニメ!

ブログ名は「王や長嶋がヒマワリなら、オレはひっそりと日本海に咲く月見草」という野村克也氏の名言からつけました。月見草のように、目立たないながらも良さがあるアニメやゲームについて、語ることを目指します。

【考察】アイデンティティの確立、自己肯定の物語としての「Re:ステージ!」~リステDDを5677970倍楽しむ~

昨年夏に放送されたTVアニメ「Re:ステージ!ドリームデイズ♪」。放送終了から半年以上たちましたが、いまだに私の心をつかんで離しません。ブルーレイを全巻購入し、3rdライブにも行きましたし、ライブブルーレイも購入して見ています。このアニメを見ると、いまだに目から流れ出る梅昆布茶を抑えられません。 なぜ、このアニメはこんなにも素晴らしいのでしょうか。というわけで、「Re:ステージ!ドリームデイズ♪」という作品の良さを、徹底的に掘り下げてみたいと思います。

 

始めに断っておきたいのは、アニメの見方に「正解」はないということです。アニメの見方は人それぞれであり、私が本稿で述べるのも、「私の見方」であって、「正しい見方」ではありません。むしろ見方が人それぞれ違うからこそ、語り合うのが楽しいのです。リメンバーズ諸氏、ぜひ語り合いましょう!このご時世、各ユニットのワンマンライブも中止になったことですし、リメンバーズ諸氏も、この機会にまたアニメを一気見してみるのもいかがでしょうか。

あと、クソ長いです。オタク特有の長い語りの結果、1万7千字とかいうふざけた字数になりました。リステに対する時間と熱意のある方だけお読みください。まあ、それだけ字数を費やしてもまだ語りつくせないのがこの作品の魅力なのですが……。

 

さて、本題に入ります。この作品の魅力を一言で言ってしまうと、「『一緒に』『夢を伝え、広げる』というアイデンティティ*1の確立、そして自己肯定の物語」ということです。どういうことか、詳しく見ていきましょう 。

 

※本稿は「Re:ステージ!ドリームデイズ♪」を視聴していることが前提のものです。まだ見ていないキミ(このページを開いた人の中にそんな人いるのか?)、今すぐdアニメストアに入って全話視聴するのです。初めの1か月は無料ですぞ。

 

目次

 

「一緒に」「夢を伝え、広げる」を体現した1話~5話

アニメ「Re:ステージ!ドリームデイズ♪」の本編12話を大きく2つに分けると、1~5話と、6~12話になると思います。

前半の1~5話で注目すべきなのは、他者に「夢を伝え、広げ」るという手段によって、KiRaReの6人が「一緒に」なり、一度諦めていた夢をもう一度追いかけることを決意する点です。

 

一緒に」が1~5話のキーワードであることは、衆目の一致するところです。すべては、1話で舞菜が紗由の「ミライKeyノート」を目にし、一緒に歌って踊るところから始まります。人前で歌って踊ることにトラウマがあり、避けていた舞菜が、紗由の歌と踊りを見て、思わず一緒に踊り出します。

一緒だと、自然に体が動く!声も……

このモノローグの後に、「閉じ込めたままの想いが歌い出す」という歌詞とともに、本当に舞菜が紗由に合わせて歌い出す演出が素晴らしいです。そして、舞菜と紗由のモノローグが重なります。

 

f:id:mitsubakaidou:20200510124022p:plain

楽しい

しかし、どうしてもアイドルに対してトラウマがある舞菜は部室を飛び出します。そんな舞菜を追いかけ、紗由は言います。

私と一緒に、アイドルを目指そう!

トラウマのある舞菜はこの誘いを断り、バスに乗って行ってしまいます。しかし、そんな行動とは裏腹に、舞菜と紗由、二人の胸の高鳴りが重なります。なんて美しいシーンなんだ……。

このように、1話だけを見ても、「一緒に」というキーワードが繰り返されます。そして、Cパートの、

もう一度、

あなたと一緒に

という舞菜と紗由のセリフで1話は幕を閉じます。Re:ステージ!ドリームデイズ♪というアニメを象徴するシーンで、第1話の幕切れとしてはこれしかないというシーンです。

 さらに2話で、ステージに上ることを躊躇する舞菜の手を引き、紗由はいいます。

舞菜と一緒にやりたいの、このステージの上で

絶対だよ、プリズムステージまで、ずっと一緒に

舞菜と紗由が「一緒に」アイドルを目指すことを決定づけるシーンです。

 

他のKiRaReメンバーが集まるのが2~4話までですが、それぞれ「一緒に」という言葉を口にします。

かえは、これからも二人のことを見ていたい。そして、もしできれば、かえも、一緒に 

と語ったかえ。

君たちが一緒に歌ってくれるなら、いいかもしれない。見つけてくれたのが、君たちでよかった

と、目に涙を浮かべてこぼした香澄。

私には仲間なんて必要ない。一人でもやるんだ。絶対にアイドルになるんだ。そう思って活動を続けてきた

と語っていたのに、

頑張らへん?もう一回夢追いかけようや。今度は一緒に

実ちゃんと、一緒にやりたいんや

という瑞葉の呼びかけに泣き崩れ、入部を決意したみい。

f:id:mitsubakaidou:20200510131351j:plain

ここの演出、視聴者を全力で泣かせにきていやがる……。

余談ですが、この辺りは毎回、夢を諦めていたKiRaReの面々が入部を決意する→EDの憧れFuture Sign、という流れが完璧すぎません?

 

閑話休題。ここまで、1~5話では「一緒に」がキーワードであることを見てきましたが、それだけではありません。1~5話で特筆すべきは、舞菜と紗由の「ミライKeyノート」を見たことをきっかけに、舞菜と紗由の夢が広がり、他のメンバーが諦めていたアイドルという夢をもう一度目指すことを決意した点です。

 

3話のシーン。

かえ「かえはこの前、舞菜と紗由の歌を聴いて、勇気をもらった。かえにも夢を見ることができるんだって。あなたは?あなたはどうだった?来てたでしょ?二人のライブに」 

香澄「うん。夢に向かって真っすぐで、キラキラしていて、あの頃の自分を思い出して、目が離せなかった」 

舞菜「うれしいです。私たちの夢が伝わったんですね!」

 

4話では、みいが、

あなたたちのライブを目指すまっすぐな気持ちがわかったわ。いい加減な気持ちじゃないんだって伝わってきた

と語ります。 

一緒になることで夢を目指すことになった舞菜と紗由のが、他のメンバーへ伝播していったのが前半部であると言えるでしょう。

 

このような前半の総まとめとなるのが5話。キラメキFutureをバックに前半のハイライト映像が流れるの尊すぎん?

そして、

みいは今までずっと一人でアイドルとして輝こうとしていた。その道はあまりにも遠く厳しかったみぃ。でも6人なら、みいたち6人でならキラキラ輝けるんだって今は思ってるみぃ

と語るみいによって、KiRaReというグループ名が決められます。一人では諦めていた夢を、6人「一緒に」なら目指すことができるという、前半のテーマを象徴するシーンです。

KiRaRe、輝け!私たちの夢!

 

オルタンシア的価値観とステラマリス的価値観

一緒に」なることで、夢をもう一度追いかけることを決意した前半部を受けた後半部。ここでまずポイントになるのは、オルタンシアとステラマリスという2つのユニットとのかかわりをKiRaReが経験することです。

 

オルタンシアの思想を色濃く表現しているのが、彼女たちが初登場する6話です。

陽花「私は一つ年上だから先に入ってたんだけど、なんか紫ちゃん以外と一緒にやる気が起きなくて」

「プリズムステージに出場するのも、たくさんの人の前で紫ちゃんと歌って踊れるから。みんなの前で、思いっきり楽しみたいなって」

紫「うん。勝ち負けも大事だけど、あたしも陽花とずっとずっと一緒に楽しみたい。それが、あたしたちのだね」

紫と陽花がこう語った後に、ライブシーンで披露される楽曲が「Purple Rays」なのも象徴的ですね。

Purple Rays もっともっと

キミがいなきゃ楽しめないよ ステージはここから All Right!

ここで、「ずっと一緒に」「楽しむ」「」というようなセリフが、前述した1、2話の舞菜や紗由のセリフと符合していることは、注目に値します(1話でミライKeyノートを歌って踊るとき、楽しいというモノローグがありましたね)。このような、勝ち負けだけではなく、「一緒に」「楽しむ」ことや「」を重視する価値観を、ここでは「オルタンシア的価値観」と呼ぶことにします。

オルタンシア的価値観は8話でも描かれます。プリズムステージ予選でライブを終えて、二人は、
陽花「本当に楽しかった
紫「うん、ホントに楽しかった。陽花と一緒で
陽花「私も。紫ちゃんと一緒でよかった
と語り合います。
 

f:id:mitsubakaidou:20200510131520j:plain


 

これに対し、ステラマリスの珊瑚は、
幼稚園のお遊戯だったじゃない。珊瑚と碧音お姉さまの敵じゃないわ
と吐き捨てます。瑠夏も、

何より、本人たちが楽しんでパフォーマンスをしてるのがよかった。そういうのは、経験を積んでいくと忘れがちになるからな

と評します。

アイドル部のレベルが高い本校の厳しい競争を勝ち抜いて、全国の頂点に立ったステラマリスには、「一緒に」「楽しむ」などという価値観は、「お遊戯」であり、「忘れがち」なものなのです。彼女たちは「勝ち抜く」「卓越する」といったことに価値を置いているからです。

10話で本校に潜入した紗由が、アイドル部の練習を見て、

ピリピリしてるわね。アイドルを目指す空気感じゃないわ

と言っているのが象徴的です。

このように、「一緒に」「楽しむ」ことよりも、「勝ち抜く」「卓越する」ことを重視する価値観を、「ステラマリス的価値観」と呼ぶことにします。

幼少期からずっと一緒にアイドルになることを目指してきたオルタンシアの2人には、「ずっと一緒」という言葉がぴったりです。一方で、ステラマリスの3人が「ずっと一緒」であるとは考えられません。

珊瑚にとって最愛の人は、ステラマリスのリーダーで、舞菜の姉である式宮碧音ですが、碧音にとっては、最愛の人は舞菜ただ一人です。8話では碧音が溺愛する舞菜に対して珊瑚が嫉妬し、

待ってなさい式宮舞菜。碧音お姉さまの一番大事な人は、この珊瑚なんだって、わからせてやるんだから

と、マウントを取りに行きます。瑠夏も、

もしかして、私や珊瑚には関心がないのかな

と碧音に対して発言します。

ずっと一緒の親戚であるオルタンシアや、親友同士であるKiRaReとは違う、独特の関係を持つユニット、それがステラマリスなのです。*2

 

さて、オルタンシア的価値観ステラマリス的価値観という、この2つの相反する価値観は、KiRaReとどのように関係してくるのでしょうか。

もちろん、KiRaReがステラマリス的価値観ではなく、オルタンシア的価値観を持っているのは言うまでもないことです。「一緒に」「楽しむ」というセリフを舞菜や紗由が口にしていることは先に述べた通りです。また、オルタンシアのパフォーマンスを見て、舞菜は

すごくよかったです。感動です

と声をかけており、瑠夏も

どこかKiRaReのパフォーマンスとも似ていたよ

と言っています(8話)。

しかし、それ以上に注目すべきなのは、物語を構成するうえで、このオルタンシア的価値観との触れ合いがKiRaReにもたらす影響の大きさです。

このオルタンシア的価値観は、KiRaReがステラマリス的価値観の方向に傾きそうになった時、彼女たちをオルタンシア的価値観の方に引き戻す役割を果たしているのです。しかも一度だけではなく、二度もです。

 

一度目は、オルタンシアが初登場した6話です。

6話では、プリズムステージの予選における勝ち負けを気にしすぎるあまり、厳しすぎる練習をみいがKiRaReのメンバーに課すようになります。これを受けて、紗由は

踊っても楽しくないっていうか……

とぼやくまでになります。「一緒に」「楽しむ」というKiRaReの価値観が、勝ち負けというステラマリス的価値観に染まりそうになったシーンです。
そこに瑞葉の策略によって現れることになったのがオルタンシアです。

f:id:mitsubakaidou:20200510192835j:plain

「一緒に」「楽しむ」ことを最も重視するオルタンシアの姿勢に触れ、彼女たちを評す舞菜、紗由、みい。

やっぱり一番は、楽しむことが夢だからじゃないかな

と舞菜が締めくくります。

勝つことにこだわり、厳しい練習をメンバーに課していたみいは、

あの二人が楽しんでパフォーマンスしてるのが、なんかこっちにも伝わってきて、見てる時も、一緒にやってる時も、本当に楽しかったんだみぃ

 と感想を漏らし、勝つことばかり考えていたことへの反省を口にします。ここで非常に重要なのは、「一緒に」「楽しむ」という考え方をみいが取り戻したことだけではなく、それが「一緒に楽しむというオルタンシアの夢が伝わり、広がった」という手段によって達成されていることです。これは、先に述べた1~5話のキーワード「一緒に」「夢を伝え、広げる」と合致します。ステラマリス的価値観に傾いていたKiRaReが、オルタンシア的価値観に触れることでKiRaReらしさを取り戻すことを丁寧に描いた、よくできた回であったと言えるでしょう。

 

二度目は11話ですが、これはKiRaReのアイデンティティと関係してくる部分なので、先にそれについて述べておきます。

 

KiRaReのアイデンティティ

後半のポイント2つ目は、オルタンシア的価値観に触れ、ライブを経験したKiRaReが変化し、自らが歌って踊る意味を自覚し、アイデンティティを確立していくことです。

 

ポイントになるのが、ステラマリスが本格的に登場する、神回の呼び声高い7話です。

あなたたちが勝ち上がってくるのを楽しみにしているわ。そして、決勝の舞台で、一緒に戦おうね

碧音の存在を感じたことによって甦りかけていた舞菜のトラウマが、この碧音の言葉によって、決定的に再発します。これは、かつてトラウマの原因となったステラマリス的価値観を感じたことに原因があります。

そもそも、舞菜のトラウマとは、「自分が歌って踊ることで、誰かを傷つけたり、怒らせたりしたこと」にあります。

一方、プリズムステージの予選で「勝ち上が」ることは、ステラマリス的価値観に照らせば、至上命題です。同時に、「勝ち上が」れない存在を生むことであり、他者を傷つけることを意味します。

舞菜は意識的にせよ無意識的にせよ、決勝の舞台で一緒に戦おうという碧音の言葉によってそのことを実感し、逃げ出したくなったのでしょう。

勝つことに至上の価値を置くステラマリス的価値観においては、嫉妬や憎悪はつきものです。ステラマリスやトロワアンジュといった、本校を代表するアイドルになるには、そういったものに耐えるのも当然なのでしょう。しかし、心優しい舞菜には耐えられなかったのです。舞菜も、

私が弱いのがダメなんです

と自己分析し、

私、自分の歌やダンスが誰かを怒らせたり、傷つけたりすることがあるなんて、思ったこともなかった

と紗由に語ります。まるで、過去の苦痛をもう一度噛み締めるように、涙を流しながら。

これに対する紗由の言葉が非常に重要です。

 

(余談ですが、

絶対だよ、プリズムステージまで、ずっと一緒に!

という約束を紗由が思い出したことで、逃げだした舞菜の居場所を見つけるのが、……心重なる瞬間、熱い!)

 

夢を見るのは私たちだけじゃない、応援に来る人たちも、夢を見るの。怖いこともあると思う。でも、ステージにはみんなの夢がたくさん詰まってる。舞菜は部に入るときに、私に言ったよね。紗由さんと一緒に夢が見たいって。あれ、本当は逆なんだよ。みんな、舞菜に夢をもらったんだ。

私たちは心の奥でアイドルを夢見ながら、たぶんどこかで、その可能性を諦めかけてた。そんな私たちを、夢に向かってもう一度挑む気にさせてくれたのは、舞菜なんだ

うん、信じて。舞菜がつらいとき、私、ずっとそばにいる。ぎゅっと手を握ってる。だから、一緒に行こう。私は舞菜と、一緒に夢が見たい

 

f:id:mitsubakaidou:20200510193029j:plain

ここにこそ、オルタンシア的価値観に触れることで確立した、KiRaReのアイデンティティが表れています。ポイントは2つあります。1つ目は、前半のポイント「一緒に」を繰り返している点。2つ目は、私たち=KiRaReだけにせず、見に来る人も含めた「みんなの夢」が詰まっているとしている点です。これは、先に述べた「夢を伝え、広げる」という点とも符合します。舞菜と紗由が「一緒に」ミライKeyノートを歌って踊ったことから他のメンバーに「伝播した夢」は、観客にも広がっていきます。「一緒に」「夢を広げる」こと、これこそがKiRaReのアイデンティティなのです。

このKiRaReのアイデンティティこそが、舞菜をトラウマから立ち直らせます。舞菜のトラウマは、「自らが歌って踊ることで、他者を怒らせたり、傷つけたりしたこと」です。このトラウマは「勝ち抜く」「卓越する」というステラマリス的価値観が原因で発生したものです。したがって、トラウマから立ち直るためには「歌って踊ることは他者を傷つけるのではない、夢を与えるのだ」という新しい価値観が必要でした。

先にも述べた通り、この価値観は6話までのKiRaReの姿と一致しています。6話までと違うのは、この思想を、歌って踊る意味として、舞菜がはっきり自覚した点にあります。アイデンティティは、自らが認識しているゆえに、アイデンティティたりえるのです。

アイデンティティを確かなものにした舞菜はステージに上がる直前、きっぱり言います。

私、もう逃げません。たくさんの人の夢が詰まってるこの会場で、みんなと一緒に、夢が見たいから

これに答え、

気づいてみたら、ウチら一人一人の夢が、6人の夢になったんやな

と瑞葉。

君たちと一緒ならどこまでも行くつもりだよ

と香澄。

まさに、「一緒に」「夢を広げる」というKiRaReのアイデンティティを確認しあうシーンといえるでしょう。

そしてそのことは、直後にライブシーンが披露されるキラメキFutureの歌詞が象徴しています。

みんなの夢 ギュッと集めて 青空に飛ばそう 風船みたいに

余談ですが、ここの歌詞のところ、かえの動きかわいすぎん?

ライブが終わると、そこに広がっていたのは、人々が傷ついたり、怒ったりした姿ではありませんでした。人々の笑顔、感動の涙、歓声……。「夢が伝播した」のです。舞菜は目を潤ませ、そして笑みを浮かべます。

 

f:id:mitsubakaidou:20200510131951j:plain

一度は逃げ出してしまったけれど、勇気を出して仲間と「一緒に」一歩踏み出したからこそ、迎えられた景色でした。視聴者としても、目からあふれ出る梅昆布茶を抑えられないシーンです。

KiRaReの夢は、風船が青空に飛んでいくように、人々に広がっていくのです。

 

 

果たされる「ずっと一緒」、果たされない「戻ってくるのよ」

さて、「一緒に」「楽しむ」ことで「夢を伝え、広げる」というKiRaReのアイデンティティがここに確立したわけですが、これにより、舞菜はトラウマを乗り越え、成長しました(9話の「お胸が発育したんちゃう?」は、この成長の象徴ととらえるのが妥当でしょう)。そして、KiRaReのメンバーと「ずっと一緒」であるという感覚を深めていきます。

それを如実に表しているのが、神回の呼び声高い9話です(毎回神回ですね)。

その中でも重要なのが、紗由が舞菜の家に泊まりにきた場面です。セリフのやりとりが長いところですが、重要なところなので引用します。

紗由「舞菜、私ね、高尾校に来たばかりのころは、ちょっとだけやる気をなくしてたんだ。一緒にアイドルを目指してくれる子が見つからなくてね。でもそんなときに舞菜が来てくれて、こうやって衣装を並べることができて、本当にうれしい」

舞菜「紗由さん、私もね、紗由さんと一緒ならどこまでも頑張れるんだよ。紗由さんと一緒に踊っていたら、私、毎日うまくなってる気がするの」

紗由「それは、私の方だよ、舞菜。舞菜が私を引っ張ってくれるんだよ」

舞菜「ううん、紗由さんが私を引っ張ってくれてるんだよ」

紗由「違うわよ、舞菜よ」

舞菜「紗由さんだよ」

紗由「舞菜だってば」

舞菜「紗由さんだよ」

カップルのような上記のやり取りですが、舞菜と紗由が「一緒に」なることで、夢を目指せるようになったことを再確認する意味合いがあり、重要です。さらに、ベッドで向かい合った状態の二人のやりとりが続きます。

 

f:id:mitsubakaidou:20200510132513j:plain

舞菜「私、紗由さんとずっとずっと一緒にいたい。離れたくない」

紗由「私もだよ、舞菜。でも、それってどれくらいまで?」

舞菜「え?ずっとはずっとだよ?」

紗由「プリズムステージが終わるまで?」

舞菜「ううん、もっともっと、ずーっとだよ。これくらい、ずっとだよ」

紗由「何それ、よくわかんないよ」

舞菜「いいよ、わかってくれるまで離れないもん」

ここで注目すべきなのは、2話で紗由が舞菜に言った

舞菜と一緒にやりたいの、このステージの上で
絶対だよ、プリズムステージまで、ずっと一緒に

というセリフに対し、舞菜が言う「ずっと一緒」は、「プリズムステージまで」という区切りが取り払われ、「もっともっと、ずーっと」になっていることです。

なぜでしょうか。2話と9話の時点で違うことは何でしょう。

それは、これまで書いてきたとおり、「オルタンシア的価値観」に触れて、KiRaReが「一緒に」「夢を広げる」というアイデンティティを確立したことです。

KiRaReはなぜ歌い踊るのでしょうか。プリズムステージで優勝するためでしょうか。いや、それは目標であって、目的ではありません。そうではなく、「夢を伝え、広げる」ためです。

プリズムステージで優勝することが目的であれば、舞菜と紗由が「ずっと一緒」なのは、「プリズムステージまで」です。しかし、KiRaReのアイデンティティに照らせば、目的は勝つことではなく、見る人に夢を広げることにあります。これには終わりがありません。だからこそ、「プリズムステージまで、ずっと一緒」が、「もっともっと、ずーっと一緒」になったのです。

 

さて、このシーンの後、9話では、紗由の両親の前でライブをすることになります。

今更私たちのステージを見ただけで、お母さんが考えを変えてくれると思わなくて

と弱気になる紗由に対して、香澄はこう言います。

あの時、ボクは君たちの心に負けたんだよ、紗由。君たちの熱い気持ちが、アイドルを諦めてたボクの心を溶かしてくれたんだ。だから、きっと伝わる。大丈夫。

舞菜や紗由が「夢を伝え、広げた」ということを再確認するセリフです。これに続いて、KiRaReの面々が次々と紗由に言葉をかけ、最後は舞菜が、

頑張ろう、紗由さん。きっと認めてもらえるから。昨日言ったよね、私たち、ずっと一緒だよって。紗由さんとこれからもずっと、一緒にやっていきたいって。だから、見せよう、私たちの夢を

私がついてる。

と言って手を握ります。これは、「ずっと一緒」であることを再確認するものであることは言うまでもありませんが、それだけではなく、7話で紗由が「舞菜がつらいとき、私ずっとそばにいる。ぎゅっと手を握ってる」と言っていたのと符合しています。見事な演出です。

おそらく紗由もそのことを悟ったのでしょう。

わかったわ、やるわ。舞菜と一緒ならきっと、お母さんにも。

と応じます。

そして迎えた「ステレオライフ」のライブ。紗由のモノローグが入ります。余談ですが、ここでステレオライフ!この曲がこのシーンのために作られたと聞いたときは感嘆の声を上げました。

見て、お母さん。私、前より、ずっとずっと頑張ってるんだよ。毎日楽しくて、輝いてるんだよ。舞菜と出会って、一緒に夢を見てるから。

舞菜が私を、支えてくれるの。舞菜が私を引き上げてくれるの。私を連れて行ってくれるの。前よりもっと、輝いている場所へ。

だから私、舞菜と一緒に、これからも夢を追い続けたい

f:id:mitsubakaidou:20200510132640j:plain

紗由のモノローグですが、特に着目したいのは、最後の一行です。前の四行は紗由が前夜舞菜に語った内容そのままですが、最後の一行は、舞菜が紗由に語った内容で、母との葛藤を抱える紗由は、前夜そこまで踏み込めていませんでした。舞菜が「ずっと一緒にいたい」と言ったことで、紗由の腹が決まったのです。

ライブが終わり、紗由の母は、

いいお友達ができたのね。あなたがこの子と一緒に、夢を追いかけたいって気持ちが、すごく伝わってきた

と紗由に告げます。またひとつ、「見る人に夢が広がった」ということでしょう。

このように、アイデンティティを確立したKiRaReは、「夢を広げる」という目的ゆえに、「ずっと一緒」であるのです。

 

ところで、舞菜がKiRaReと「ずっと一緒」であることを選ぶということは、同時に姉である碧音との決別を意味します。

碧音は、作中を通して、ずっと舞菜と一緒に歌って踊ることにこだわりを見せます。

あなたたちのおかげで、またまーちゃんがステージに戻ってきた。本当に、本当に感謝しているわ

でもやっぱり私うれしい。どんな形でも、まーちゃんと同じステージに立てるのが

7話に合ったこれらのセリフは、舞菜と同じステージに立てることを喜んだものです。また、8話では、

だっていずれ、まーちゃんは私のもとに、戻ってくるのよ。
そのためにも、ステラマリスは王者であり続けなければならないんだから

と語ります。 

このセリフを言うときに顔を写さない演出がいいですね。
興味深いのは、珊瑚も、碧音も、最愛の人と「一緒」になるために、実力をもってするほかないという発想を持っていることです(とにかく、碧音お姉さまの一番大事な人は珊瑚なんだから!ダメダメなあんたなんか、この珊瑚様が絶対倒してやるんだからあ!)。このあたりは、ステラマリス的価値観をよく表していると言っていいでしょう。

 

これに対し舞菜は8話で、

確かにお姉ちゃんたちはすごすぎます。でも、私同じなんです。お姉ちゃんと踊ってる時も、みんなと踊ってる時も、同じようにワクワクして、楽しくて。
けど、ただ一つだけ、お姉ちゃんと踊ってるときは思わなかったことがあるんです。
もっともっと、ここより先の景色を見てみたいって。理由は分からないけど、みんなと一緒なら、もっともっとどこまでも行けるんだって、そんな気持ちになったんです。
だから、お姉ちゃんたちにだって追いついて、超えていけます。

皆と出会えて、いろいろあって今の私になったと思うから

と語ります。これは、先に述べた「夢を広げる」という目的のためには「ずっと一緒」であるということが表れたセリフですが、同時に姉との決別を予告する言葉でもあります。「勝つ」「卓越する」ということが目的のステラマリス的価値観のもとに身を置く碧音とでは、プリズムステージで優勝すれば終わりであり、「ここより先の景色を見てみたい」という感情は湧いてこないのです。

余談ですが、このシーンの直後の特殊EDが宣誓センセーションなのもいいですね。このアニメは楽曲のチョイスが良すぎるんだよなあ……。

 

そして、8話のこのセリフで予告されていた姉との決別が具現化するのが、10話です。

本校に潜入する舞菜たち。ステラマリス的価値観を感じさせる本校へ潜入なのに、「みんなが一緒だから」大丈夫だと話すシーンがあるのがいいですね。

潜入した本校で、舞菜は碧音と再会します。ここで、碧音が

よく来てくれたわね

と声を掛けます。何気ない一言ですが、よく考えたら、舞菜はトラウマのある場所へ来ているわけで、本当に「よく来てくれた」と言えます。繰り返しますが、「みんなが一緒だから」来られたということですね。

まーちゃんはいつ、私のところに戻ってくるの?

と聞く碧音に対して、ややあって舞菜はこう答えます。

あの、お姉ちゃん。私これからもずっと高尾校にいるよ。

あのね、お姉ちゃん。私、小さいころからお姉ちゃんにあこがれて、ずっとその後ろを追いかけて、一緒にアイドルになるって夢見て、本校にも入学できた。でも、辛くなって、結局逃げちゃって。

もう夢なんて忘れてたはずなのに、高尾校でみんなに出会って、もう一度、夢を追いかけたいって思った。また逃げ出しちゃったときもあったけど、みんながいてくれたから、今度は頑張ることができた。ちゃんと、ステージに立つことができたの。

だから、私は、お姉ちゃんのところには戻らない。KiRaReのみんなと、これから先の景色を見たいの。

8話で舞菜が言っていた「ここより先の景色を見てみたい」を、碧音に向けて言った場面であると言えるでしょう。

この後、舞菜がKiRaReのメンバーのもとへ戻っていくシーンで終わるのが、この10話というエピソードを象徴していますね。

f:id:mitsubakaidou:20200510132810j:plain

明るい場面を描いているはずなのですが、同時に寂しさを感じさせるシーンでもあります。すき……

一方碧音は、

本当に、強くなっちゃったのね

と感慨深げにつぶやきつつも、瑠夏に対しては

なーんでもない

と、感情を見せない余裕がありました(ステラマリスはこのあたりの距離感が絶妙ですね)。舞菜との決別が、実感としてはまだ受け止められていないのでしょう。

あるいは、まだ舞菜が戻ってくる可能性を諦めていないのかもしれません。

11話では、

本当に楽しみ。最高のステラマリスを披露できる、その時が

と語っています。それに最終12話では、

見ててまーちゃん。これが、あなたがまだ見たことのない、最高の私よ

と心の中でつぶやき、Like the 俊,Like the龍Like the Sun, Like the Moonを披露した後、ステラマリスコールの中で、意味深な微笑みを舞菜の方へ向けています。

心の中のどこかで、最高のパフォーマンスを披露すれば舞菜が戻ってくる、とまだ思っていたのではないでしょうか(ステラマリス的価値観!)

この舞菜との決別がありありと実感されるのは、もちろん12話のあのシーンです。

 

挫折の肯定とオルタンシア的価値観

さて、オルタンシア的価値観にKiRaReが影響を受ける1回目が6話であることはすでに述べた通りですが、2回目は11話です。曲に例えるなら、キラメキFuture、OvertuRe:という2回あるサビの前に、「オルタンシア」というBメロを配したようなもので、美しい構成につくづく感心させられます。

11話では、八王子電気通信大学スパコンによって、KiRaReがステラマリスに勝つ確率は0%であるという計算結果が出ます。
ショックを受けた紗由は、小学生らしき女の子二人組のステージを見て、幼いころの自分を回想します。

楽しそうだな。私も、こんな拍手を受けて、アイドルになりたいって思ったんだ

「勝ち負け」というステラマリス的価値観に迫られた紗由にとって、「楽しそう」というオルタンシア的価値観は、遠い日のものになってしまいました。舞菜は、紗由を元気づけようとしますが、紗由の落胆は大きく、なかなかうまくいきません。
そんなところに現れたのがオルタンシアの二人でした。二人は、ステラマリスに勝てる可能性が0%と聞いても、気にするそぶりを見せません。そんな二人の姿に、紗由は感心します。

 

お二人は、負けることって怖くないんですか?

紫「別に負けるのは好きじゃないけど」
陽花「でも、私たちは勝てる勝てないよりも、あくまで楽しむことが目的だからね」
紫「うん、そうだな」
陽花「私が紫ちゃんより一つ年上で、先に中学に入ったのは知ってるよね」
舞菜「はい、聞きました」
紫「あたしはその1年間、陽花に取り残された気がして、すごく寂しい思いをしてたんだ」
陽花「私も同じ。中学に入って、新しい友達もできたけど、でも紫ちゃんと離れてると、何もかもが足りなく感じてた
紫「だから、二人一緒のオルタンシアのパフォーマンスが、何より楽しいんだ」
陽花「勝っても負けても、オルタンシアはオルタンシアだから」
紫「それに1%くらいは勝てるかもしれないしな」
陽花「せめて2%くらいにはしようよー」


一緒に」「楽しむ」というオルタンシア的価値観が明白に表現されたやり取りです。しかし、6話の時点に比べて、ひとつだけ新しく追加されたことがあります。それは、「一度挫折した」という点です。二人で一緒に楽しむという夢は、「一度挫折した」からこそ、何よりも大切になったのです。
オルタンシアと別れた舞菜は、紗由を山登りに誘います。

紗由「なんか、かなわないなって思っちゃった」
舞菜「オルタンシアのお二人ですか?」
紗由「うん……」
舞菜「でも私、お二人の気持ちが少しわかる気がしました」
紗由「どういうこと?」
舞菜「私、本校から逃げて高尾校に来たじゃないですか。あの時はもう二度とアイドルのこととか考えたくないって思ってました。でも、そう思えば思うほど、何か大事なものを失ってた気がしてたんです」
舞菜「あそこで紗由さんに出会ったとき、私、失ったはずのものが、また戻ってきた気がしたんです」
紗由「舞菜……」
舞菜「紗由さんは違うかもしれないけど」
紗由「ううん、私だって同じだよ。私も、あの時まで、子供のころからの夢が、もう終わったような気がしてた(中略)だけど、舞菜に初めて会ったとき、あの時、もう一度何かが始まった気がする」
舞菜「私もです」
紗由「うん、まるで、閉じてた本が、また開いたみたいに」

f:id:mitsubakaidou:20200510132959j:plain

二人の気持ちがわかる気がしたと舞菜が言っているのが重要です。これはどういう意味でしょうか。

舞菜がこう言ったのは、「一度挫折したからこそ、一緒の時間が楽しい」という思想に共鳴をおぼえたからです。オルタンシアの二人が「一緒」の時間を何より大切にしているのは、「一緒」ではなかった時間の辛さを知っているからです。同様に、舞菜と紗由が「ずっと一緒」と誓い合うのは、一度挫折したからこそ、その挫折から立ち直らせてくれた出会いに感謝しているからです。

そう考えると、挫折も肯定できてしまいます。挫折していなかったら、舞菜と紗由は出会わなかったし、挫折していなかったら、その出会いの持つ意味も分からなかったに違いありません。

オルタンシア的価値観に再度触れたことで、KiRaReの6人は、「一緒に」「夢を広げる」というKiRaReのアイデンティティを再確認するだけでなく、内省を深め、過去の挫折を肯定するようになります。その結果が、名曲「OvertuRe:」の誕生です。

もし、OvertuRe:の特徴が、「オルタンシア的価値観に触れたKiRaReによって披露される」という点だけであれば、キラメキFutureと同じであり、本編の中で2回も描く必要はありません。この2曲で大きく違うのは、キラメキFutureが未来へ向かって夢への前向きな思いをつづることに集中したのに対して、OvertuRe:では、過去の挫折を未来から肯定できた点にあります。

この点は、アニメブルーレイ3巻付属のブックレットに掲載されているSoflan Daichiさん(OvertuRe:作詞)のインタビューによく表れています。

KiRaReの6人と向き合っていて教えられたことのひとつに、「過去は変えられる」というものがあります。「過去は変えられない」というのがコモンセンスですが、その過去があったおかげでこうしてみんなに出会えた。そんなふうに「それは必要だった」と言える未来を作っていけば、「思い出したくもなかった」だけの過去も「そのおかげで今がある」と思える過去に変えることができる。大切なのは「後悔しないこと」ではなく、「前を向いてちゃんと後悔し続ける強さ」なのだと思います。後悔がある限り、きっと人はまだ前に進める。そんな彼女たち6人から受け取ったメッセージを込められたらと思い、「Overtu"Re:」というタイトルを付けました。

この考え方、大好きです(唐突な告白)。

 

さて、校内ライブでOvertuRe:を披露する場面で、11話は幕を閉じます。紗由と舞菜のモノローグ。

紗由「この歌で、みんなの心を動かせば」
舞菜「私たちは、きっとどこまでだって行ける」

ずっと一緒」「夢を広げる」の2点を確認するセリフであることは言うまでもありませんね。

 

Dream Days

最終話。決戦を前に、KiRaReの面々は「一緒」であることを確認し合います。

一緒にてっぺんみよな、実ちゃん」

「梅昆布茶で祝杯を挙げるみぃ」

と声を掛け合う瑞葉とみい。

「怖がらないで、一緒に前に進もう」

「エンジェル……ありがとう」

と語り合うかえと香澄。

以前にみいを助けた瑞葉を今度は実が助け、香澄を助けたかえを香澄が助けるのがいいですね。

舞菜「私、変わったのかな。紗由さんと出会って。

それに、紗由さんとなら絶対に大丈夫って、心から思ってるからかも」

紗由「私も、ひょっとしたら、舞菜とじゃなきゃ、もう歌ったり踊ったりできないかも」

舞菜「あ、今同じこと思ってた」

 これも、「ずっと一緒」であるを確認し合うやり取りですが、舞菜が自らの成長を自覚していることがよく表れています。

本番前も、KiRaReの6人は、「一緒に」「夢を伝え、広げる」というアイデンティティを確認し合います。

舞菜「みんな、私たちはKiRaReです。6人みんな違ってて、でもひとつに集まってキラキラ輝いてる。だから大丈夫。私たちのパフォーマンス、届きます」

瑞葉「舞菜ちゃんの言うとおりやな。ここで終わらしたらあかん」

みい「ここがスタートみぃ」

香澄「みんなで一緒に」

かえ「前を見て」

紗由「どこまでも輝いて見せる!」

 

舞菜「どこまでも行こう、私たち6人で」

全員「KiRaRe、輝け!私たちの夢!」

そして披露されるOvertuRe:。歌詞を聞いただけでも梅昆布茶が出てくるのに、以下のモノローグにとどめを刺されます。ここにも、KiRaReのアイデンティティがよく表れています。

香澄「あの日、また自分の声で歌おうって決めた。落ちてたボクを、みんなが拾ってくれたから。だからボクは、精いっぱい歌う!」

かえ「夢を見ることは難しい。叶えることはもっと難しい。でも、一歩踏み出したら止まれない、それが夢!」

瑞葉「実ちゃんが、みんながおらへんかったら、ウチ、こんな景色見れへんかった。がんばれへんかった」

みい「ほんとは、ずっと寂しかった。仲間と、同じ夢が見たかったから」

みい「これからもよろしくみぃ♪」

瑞葉「こちらこそや」

紗由「最初は部長と二人だった。でも、舞菜と、みんなと出会って、私の夢は、6人の夢になった」

舞菜「私たちの夢、みんなにもきっと届く。届けて見せる、この歌で!」

「私たちは、みんな一緒に輝くことができる。

一度は諦めた夢を、また追いかけてつかむために。

お姉ちゃん、見て、これがKiRaReだよ」

f:id:mitsubakaidou:20200510133130j:plain

ここにおいて、碧音は舞菜との決別をはっきり認識します。どれほど優れたパフォーマンスをステラマリスが披露しても、舞菜が戻ってくることはありません。前述したように、KIRaReの仲間と「一緒に」「夢を広げる」ことこそが舞菜が歌い踊る理由であり、「勝ち抜く」「卓越する」こと(=ステラマリス的価値観)は目的ではないからです。

これを受けた碧音の「舞菜……!」という独白に、どれほどの想いが込められていることでしょう。最愛の妹との決別を迎えた寂しさ、悲しさ、一方で式宮舞菜という一人の人間が挫折を経て夢を見つけた嬉しさ……。碧音の眼前にいたのは、もはや他人を傷つけるのを恐れて歌とダンスができなくなった「まーちゃん」ではなく、夢を広げるために歌い踊る「舞菜」でした。

 

そして、KiRaReのは、会場にいる人々に広がります。それが各キャラクターのセリフに表れています。「KiRaRe、天使なのでしょうか」「はい、翼が見えましたわ」「那岐咲にも見えました」と語り合うトロワアンジュの3人を皮切りに、

紫「キラキラしてるね」

陽花「負けないで、応援してるから」

美久龍「まぶしすぎるぜ、KiRaRe」

朱莉「でも、もっと輝いて」

ハク「頑張って」

玄刃「前に進んで」

人々は笑顔になり、あるいは涙し、会場には万雷の拍手と歓声が鳴り響きます。

舞菜は心の中でつぶやきます。

これが、私たちの、夢の、始まり

 

さて、大会の結果を受けて、KiRaReの6人は部室に集まります。

紗由「楽しかったです」

かえ「うん」

香澄「6人で一緒にやって」

かえ「すごく、楽しかった」

紗由「この想い出は、絶対忘れません」

舞菜「うん」

始めは、感情を抑えるようにぽつりぽつりと話していた6人でしたが、涙を流す瑞葉とみいにつられて、次第に感極まっていきます。

舞菜「私、私高尾校に来て本当に良かったです」

かえ「かえもチャレンジして本当に良かった」

紗由「みんなと頑張ってよかった」

香澄「この部に来てよかった」

舞菜「でも、悔しいです」

紗由「うん、悔しい」

全員「悔しい……!」

紗由「これで終わりだなんて嫌!私、もっともっとみんなと部活したい!」

みい「みいだって、みんなと一緒にプリズムステージ出たかった!」

かえ「優勝、したかった……!」

香澄「今はただ、悔しさしかないね」

瑞葉「信じられへん、全部終わってもうたなんて」

全員号泣した後、舞菜が再び口火を切ります。

舞菜「でも、うれしいです。最後まで、6人で頑張れて。ありがとうございました!」

紗由「うん。ありがとうございました!」

香澄「本当にみんな、最高の仲間だったよ」

みい「こちらこそだみい」

瑞葉「笑顔で終わろうか、謡舞踊部」

かえ「皆と会えて、よかった」

挫折を抱え、何の自信もなかった女の子たちが次々に発する、自己と仲間の頑張りを肯定する言葉。チャレンジして、夢を広げたからこそ出てきた言葉です。結果は悔しいものでも、それはもはや挫折ではありませんでした。

私は嗚咽しました。心の中では、おめでとう、おめでとうという言葉が何度もあふれ出てきて、とどまるところを知りませんでした。

 

最後に、一つの可能性を残して物語は幕を閉じます。万感の思いを込めて舞菜と紗由は言います。これまでの流れを考えれば、お互いにかける言葉はこれしかありません。

舞菜、これから先も、ずーっとよろしくね

うん、紗由さん。ずーっと一緒だよ

 そして、367Daysが流れたラスト(選曲が神であることは言うまでもない)。集合写真を思われるカットで、「Dream Days」と書かれ、フィナーレを迎えます。

f:id:mitsubakaidou:20200510193356j:plain

ですが、この「Dream Days」は、「若いころは夢に向かって頑張ったな」などと老人が回顧するような、そんな骨董品のような感慨でなく、いつまでも輝きを放つ鮮烈なメッセージです。彼女たちは「ずっと一緒」であり、彼女たちの「Dream Days」には終わりがないからです。一度挫折しても、その挫折を抱きしめ、自らを肯定することができたKiRaReの6人は、夢に向かっていつまでもいつまでも走り続けることでしょう。

そして、この「Dream Days」は、KiRaRe6人のものだけではありません。KiRaReのアイデンティティは「夢を広げる」ことにあり、KiRaReの夢は私たち視聴者にも広がったからです。私たちもまた、KiRaReから受けた夢へのバトンを持って、走り続けることでしょう。

この世に「Re:ステージ!」があってよかった。「Re:ステージ!」がある時代と場所に生まれてよかった。ありがとうございました!

 

おわりに

クソ長い文章でした。ここまで読んだすごい人、いるのかな?もしいたら、本当にありがとうございます。

コンテンツの盛り上がりは、ファンが語るところから生まれると思います。

「語り合う」という意味で、ご批判、ご叱責含め、ご意見のある方はコメントやツイッターのリプにいただけると幸いです。

放送からどれほどたっても、胸の奥に溢れた君の”大好き”を思い出して、語っていきたいですね!

 

 

5/17 一部誤字を修正しました。

*1:自己同一性などと訳される。自分は何者であるか、私がほかならぬこの私であるその核心とは何か、という自己定義がアイデンティティである(ブリタニカ国際百科事典)

*2:昨年行われた3rdライブのパンフレットに掲載されたユニットトークでは、以下のように語られています。

諏訪(彩花、瑠夏役) でもステラマリスって、珊瑚ちゃんは碧音のことも好きだけど、がっつりなれ合ってる感もないんですよね。絶妙な距離感じゃない?

高橋(未奈美、碧音役) うん。友達同士ではない感じ。

諏訪 不思議だよね。それぞれの信頼関係、結び付きは強いんだけど。

 さすがにキャラクターを演じる声優さんは、当を得た見方をしますね(上から目線)。