月見草アニメ!

ブログ名は「王や長嶋がヒマワリなら、オレはひっそりと日本海に咲く月見草」という野村克也氏の名言からつけました。月見草のように、目立たないながらも良さがあるアニメやゲームについて、語ることを目指します。

「壁」が壊れるとき~劇場版 プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章考察・感想~

はじめに

2月11日に公開された映画「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」。個人的に2月は忙しかったこともあってなかなか観に行けませんでしたが、3月に入ってようやく観に行けました。結論から言うと、TVシリーズの続編として素晴らしいの一言に尽きます。もう公開終了も近づき、上映している劇場や回数が減りつつある中、2週連続で観に行ってしまいました。映画館から帰ってきた勢いでこの記事を書いています。

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↑ちなみに来場特典のフィルムはタイトルロゴでした。ある意味レアでは……。

秋には第2章が公開予定ということで、なぜこの作品が続編としての素晴らしさと、今後の展望を述べてみたいと思います。

それには、まずTVシリーズがどのような作品だったのかを振り返っておかねばなりません。

 

 

TVシリーズ振り返り① 嘘

この作品において、まず第一に「嘘」が重要なキーワードであることは疑いありません。「殺すのか」というエリックの問いかけに「いいえ」と言いながらエリックを撃ち殺すアンジェが象徴的です。このほかに、

・1話でエリックの妹のために保険金を用意したアンジェに「優しいのね」と語りかけるプリンセスに、「私は優しくなんかないわ」と答えるアンジェ

・10話でドロシーが友達の委員長を撃たなくて済むように委員長に仕掛けたが、その理由を「任務を確実に遂行するため」と語るアンジェ

・11話でプリンセス暗殺指令に「命令には従うだけ」と答えるアンジェ

など、アンジェがついた嘘を数え上げればきりがありません。

 

また、チーム白鳩の面々はみな嘘をついています。

・アンジェとプリンセス→幼少期からの知り合いであり、入れ替わっている

・ドロシー→プリンセスを監視していることを仲間は知らないこと

・ちせ→チーム白鳩に属しつつ、日本が王国につくか共和国につくべきかを探っている

・ベアト→……あれ?まあいいや。

 

では、なぜこれらの嘘は必要なのでしょうか。それは、この作品世界の中で生きていくためです。

プリンセス・プリンシパルの作品世界は、残酷で無慈悲なものとして描かれます。王族は優雅な暮らしを営む一方で、市民は貧困に苦しみ、11~12話では再び革命が起きる寸前までいきました。プリンセスはもともとスリの女の子でしたし、ドロシー、ベアト、ちせそれぞれ「優しい父親」に恵まれていないのも、この残酷な世界を象徴していると言えるでしょう。3話でベアトが「神様は何もしてくれない」と言っていたり、8話でアンジェが「ひどい国よね」と言っているのがわかりやすいと思います。

このような世界を生き抜くうえで、「嘘」は自分の心を守るために不可欠なのでしょう。残酷な世界へのアンサー、それが「嘘」なのです。

 

TVシリーズ振り返り② 絆

一方で、チーム白鳩の関係は嘘だけでできているものではありません。

・6話では、スパイであるにもかかわらずベアトに素性を明かすドロシーに対して、ベアトは「私たちもうカバーじゃなくて本当の友達ですね」と言っている

・9話では、監視役であるにもかかわらず、チーム白鳩についてちせが「あの者たちに勝利してほしいと思っています」と語っている

・11話でプリンセス暗殺指令に対して「私は殺したくない」とドロシーが本音を吐露する

上記のように、チーム白鳩にはスパイのチームという枠組みを超えた「絆」(正直、この言葉には負の感情を抱いてしまうところがあるのですが、主題歌「LIES&TIES」に敬意を表してこの言葉を使います)が存在しています。

 

さらに重要なことは、この物語において「絆」は「嘘」を壊すということです。

 

プリンセスが「女王となって、私たちを隔てているものをなくしたい」「壁を壊したい」と言っていますが、ここにおける「壁」という言葉こそが、「嘘がはびこる残酷な世界」を象徴しています。これは、単に物理的な壁ということではなく、人と人の心を隔てているという意味での精神的なものも含めた「壁」です。

 

そして、「女王となって壁を壊す」というのはアンジェとの約束、「絆」から生まれたものです。プリンセスはもともと本物のプリンセスではない、「嘘」のプリンセスでしたが、8話ではこの決意を語ったことを受けて「あなたはもう本物のプリンセスよ」とアンジェに言われます。「嘘」も「絆」から生まれたものならば本物になるのです。

 

アンジェも、11話~12話でプリンセスを守るためとはいえ仲間に嘘をついて暴走しますが、結局は仲間を頼ることでプリンセスを助けることに成功し、最後にはプリンセスが「あなたの心の壁も壊して、みんなの前で笑える日が来るまで、絶対に離れない」と言っています。「心の壁」というのは、本心を話さず嘘をつくところであることは言うまでもありません。

 

チーム白鳩も、「嘘」に従えばプリンセスを暗殺するのが正解でしたが、最終的には「絆」を優先し、プリンセスを救い出したところで物語は幕を閉じます。嘘がはびこる残酷な世界の中で、異なる価値観に基づく選択をしたチーム白鳩は、作中でも触れられた「ノアの箱舟」で放たれた鳩のごとく、混沌とした世界の中で一筋の希望となるでしょう。

 

プリンセス・プリンシパル」は、「絆」が「嘘」という「壁」を壊す物語であるのです。

 

 

ビショップの壁が壊されるとき

さて、TVシリーズの振り返りが終わったところで、劇場版第1章の物語について考察してみます。

 

一般には、非業の死を遂げるビショップ、チーム白鳩に迫る危機、どうなる?という見方になるところでしょうが、上記のようなTVシリーズの見方に従うと、違った面が浮き彫りになってきます。

 

まず触れておきたいのは、ビショップというキャラクターです。王室内にいるコントロールのスパイでありながら、コントロール側の情報を「雇い主」に売っていたという「嘘」の象徴のようなキャラクターです。

 

プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」は、まず第一に、この「嘘」の象徴のようなビショップの「心の壁」が壊れる物語である、と言えます。

 

このビショップが共和国の情報を売っていたことをアンジェたちに見抜かれた後、王室から逃亡するときのシーンがまさに「心の壁」が壊れる場面として印象的です。それまでのスパイとしての厳格な態度は消え、柔和な口調そのもので「嘘をつくことに疲れた」とビショップは語ります。このあたり、飛田展男さんの演技も光っています。

 

プリンセスに対しては、「あなたにお仕えできたことは私の誉れ」と本音で語りますが、これはよく考えれば奇妙なことです。ビショップの「侍従長」としての姿は「嘘」であり、真の姿はスパイであるからです。それなのになぜこのような語りをするのでしょうか。

 

それは、やはりTVシリーズと同様、「絆」から生まれた嘘であれば本物になるからです。プリンセスに仕えるにあたっては真に敬愛の念を抱き、プリンセスとビショップの間には主従としての「絆」があったのでしょう。それは紛れもなく本物であったのです。ビショップが逃亡するときにプリンセスが自ら望んで見送りに来たことからも、プリンセスにビショップを慕う心があったことが読み取れます。

 

一方で、ビショップは逃亡に際し、思い出の菓子をアンジェから受け取ります(この菓子の意味、1周目では気づかないですよね)。この菓子から、ビショップはアンジェが持つ彼自身への親愛の情を感じ取ったことでしょう。アンジェに対しても「10年ぶりにお会いできてうれしかったですよ、シャーロット殿下」と語り、直後に非業の死を遂げるに際して「嘘をつき続けるとあなたもこうなる」と絞り出すように言います。それまでの「嘘」をつき続けた自身を否定する言葉です。非業の死に見えますが、プリンセスとの「絆」、アンジェとの「絆」によってビショップの心の壁が完全に取り払われたシーンであるという意味では、幸せな最期であるとも言えるでしょう。

 

アンジェの壁が壊されるとき

この劇場版を鑑賞して第二に目につくのは、TVシリーズ最終回におけるプリンセスの言葉どおり、プリンセスをはじめとするチーム白鳩の面々がアンジェの「心の壁」を壊していることです。

 

今回も、ビショップにプリンセスとの入れ替わりが見破られたことをアンジェは一人抱え込もうとしますが、「何もない」という嘘をプリンセスにあっさり見抜かれ、チーム白鳩にこのことを打ち明けます。ここで、プリンセスだけではなく、ドロシーもアンジェの様子がおかしいことに気づいていることにも注目すべきです。「絆」が「嘘」を壊すのです。

 

また、アンジェは当初、ビショップに対しても本音を隠してあくまでスパイとして接します。「10年ぶりにお会いできてうれしかったですよ、シャーロット殿下」とビショップに語り掛けられても、「私はもう……」とこぼすだけで、本心から応答しませんでしたが、ビショップが撃たれた瞬間、それまでの「ビショップ」という呼び方から「ウィンストンさん」と呼び方を変え、最後のシーンでは思い出の菓子を見ながら、ビショップがいなくなったことについて「寂しい」という心情を吐露します。

 

嘘をつき、本心を語らなかったTVシリーズから比べると、アンジェの心の壁も「絆」によって確実に壊されたと言えるでしょう。

 

おわりに~壁は壊れるのか~

以上のように、「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」は、ビショップとアンジェ、2人の「嘘」という心の壁が壊れる物語でした。TVシリーズ最終話におけるプリンセスのセリフどおりの展開になったわけで、この作品がTVシリーズの続編として素晴らしい理由はここにあります。

 

では、第2章以降はどうなるのでしょうか。

 

もちろん、プリンセスが誓ったとおり、物理的なロンドンの壁だけではなく、あらゆる人々を隔てている心の壁が壊されることを、今後期待するところです。

 

しかし、もっと具体的なことを言っておくと、チーム白鳩の面々がお互いに秘密を明かすときが来てほしいと思います。ここまでの物語を通じて高まったチーム白鳩の「絆」であれば、嘘などつく必要がない日が来ると信じています。

 

さらにもう一歩踏み込むと、プリンセスがチーム白鳩だけでなく、全国民に正体を明かすときが、真に「壁」が壊されるときであるでしょう。

 

TVシリーズでは、アンジェだけでなく、イングウェイに正体を明かしても、プリンセスは真のプリンセスであると認められ、さらに今回の劇場版では、正体を知っているビショップが「立派なプリンセス」としてプリンセスのことを認めていました。絆から生まれた嘘は本物になるのです。

 

プリンセスの正体が全国民に明かされても、敬愛すべき人物としてプリンセスが国民、いや世界の人々から慕われる……そんな日が描かれることを思い浮かべるのは、夢想でしょうか。

 

世界から「壁」がなくなることを願ってやみません。

 

ここまでお読みくださりありがとうございました。